開催報告:4/22こども基本法施行&子どもの権利条約批准29周年記念イベント 「こども基本法でどう変わる?どう活かす?」

1994年に日本政府が国連子どもの権利条約を批准して29年がたった今年(2023年)の4月、いよいよ「こども基本法」が施行され、「子ども家庭庁」が設置されました。さらに「こども大綱」の作成に向けた準備が進められ、国や自治体の施策の実施において子どもの声を聴く仕組みづくりが模索されるなど、子どもの権利の実現を日本社会でどのように具体化していくかが、今まさに問われています。 本イベントは、日本の子どもの権利条約批准日である4月22日に開催し、国や自治体で子どもの権利条約の概念が浸透し、具体的な政策・仕組みとして実現・機能していくためには何が必要か、子どもの最善の利益を守ることができる社会づくりとは何か、116名の参加者の皆さんととともに学び、考えました。

基調講演:「なにが変わる?こども基本法施行後の日本~期待と残された課題~」

講師の野村武司氏(日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事、子どもの権利条約総合研究所副代表、東京経済大学教授、東京都中野区子どもオンブズマン、国立市子どもの人権オンブズマンスーパーバイザー、前西東京市代表子どもの権利擁護委員)より、こども基本法の意義、法制定の背景や今後に向けた課題などをお話しいただきました。

講演の概要

  • 2023年4月1日、こども家庭庁設置法、整備法、こども基本法が施行された。これにより、国連・子どもの権利委員会の総括所見でも再三指摘されていたことのうち、子どもの権利を監視する独立機関の設置にはまだ課題を残しているものの、子どもの権利に関する包括的な法律の制定、包括的な政策の策定、部門横断的な政策調整機関、評価・監視機関の設置に向けて一歩踏み出した。
  • こども基本法制の背景には、国際社会からの要請に加えて、法律制定の基礎となる社会的・経済的事実が存在していた。子ども自身が抱えている問題(精神的幸福度、自殺等)、家庭と子どもをめぐる問題(子ども虐待、子どもの貧困、ケアリーバー、ヤングケアラー等)、学校と子どもをめぐる問題(いじめ、不登校、発達課題を持った子ども等)など。しかし、政府が考える立法事実として強く意識されているのは「少子化」。
  • 法律が制定されると、規範としてその後の社会のあり方を方向付ける役割も担っている。こども基本法は、こども家庭庁をはじめとして政府が行うこども施策を実施する際の基本的なあり方を定める法律。こども基本法が目指すものは、子どもが権利の主体であることを社会全体で認識する「こどもまんなか社会」。
  • 「こども施策」として、新生児から思春期まで切れ目のない、こどもの健やかな成長に対する支援をするということは、こども家庭庁の所管にはならなかった学校教育もここに含まれる。
  • また、子どもの権利条約の一般原則に準じた基本理念がこども基本法においても定められている(基本理念の一号~六号)。留意点として、三号、四号はいずれもこどもの意見表明に関することで、三号は自分に直接関係すること、四号ではその限定はなく最善の利益として結ばれているが、この2つは一体的に解釈される必要がある。
  • こども基本法において、自治体にはいくつか「努力義務」とされていることがあるが、こども基本法11条において、子どもの意見の反映は「義務」づけられている。
  • わが国の法制度では、こども施策の根拠のほとんどが(国の)個別の法律だが、実施する権限は自治体。自治体は、こども大綱を勘案して、「地方子ども計画」を定めるよう努めるとされ、しかも、他の計画と合わせて一体のものに作成することができる、とされた。自治体は、子ども計画を実施する以上は、子ども条例をつくり、「検証するしくみ・しかけ」を整えなければならない。その際、子どもの権利保障にどれだけ効果があったかの定量的+定性的評価が必要。こども基本法のもとでの自治体の推進体制のかたちは、子どもにとってわかりやすいものである必要がある。制度だけでなく子どもの声を聴く「文化」をつくるのが大事。
  • 現在のこども基本法制では、独立の監視(independent monitoring)のしくみが決定的に欠落している。この仕組みとして子どもコミッショナーの設置を、国連・子どもの権利委員会は締約国に求めている。子どもコミッショナーとは、国や自治体とは距離感を保って(独立した立場で)、子どもの権利が守られているかどうかをモニター(monitor)し、子どもに開かれた形でかつ子どもの意見を十分聞いた上で、子どもの権利を守る(protect)とともに、子どもの権利を促進する(promote)役割を持つ機関。今回これが見送られたことは最大の問題。子どもコミッショナーはなければならない。諦めずに訴えていくことが必要。
  • 子どもコミッショナーか、子どもオンブズマンか。個別救済を行っていれば「オンブズマンモデル」、なければ「コミッショナーモデル」とする用法がある。日本の自治体の相談・救済機関はオンブズマンモデル、国はコミッショナーモデルでもよいと思う。
  • こども家庭庁を設置し、こども施策について、基本理念に従い司令塔としたことで(教育分野を除く)、同時に総合調整機関としての権限を持たせたことは評価できる。しかし、自治体には一体化を促しながら、庁内で局に分かれるなど、新たな縦割りを作っていないかは注意が必要。
基調講演をする野村武司氏

パネルトーク:こども基本法施行にあたって、キャンペーンのロードマップと4つのアプローチ・今後の活動

A.キャンペーンのロードマップ

甲斐田万智子(キャンペーン共同代表 NPO法人国際子ども権利センターC-Rights代表)より、キャンペーンの今後のロードマップを説明しました。主なポイントは次の通りです。

  • 3つのインパクト(起こしたいと考えている変化)の実現を目指し、6つの活動に取り組む。
  • 1つめのインパクト「子どもの権利を保障する総合的・包括的政策の実行」に向け、「子どもメガホンプロジェクト」で子どもの声を聴き、国連・子どもの権利委員会の審査に子どもの声を反映したり、こども大綱に子どもの権利保障、権利教育・普及が含まれるよう働きかける。
  • 2つめのインパクト「子どもコミッショナー制度実現への道筋の可視化」に向け、子どもの声によって制度改善されたことを共有していく。セミナー開催や講師派遣・アドバイザー派遣・自治体連携などを進める。
  • 3つめのインパクト「子どもの権利条約の理解が進み、行動が増える」よう、啓発キャンペーンや広報活動を進める。
  • 上記の活動を進めるためにはたくさんの方の力が必要。ぜひ賛同団体になりキャンペーンに加わってください。
キャンペーンがめざしていることとロードマップの説明の様子

B.キャンペーンのアプローチ

① 子どもの声を聴き、子どもとともに行動する
② つながり、活かし、学び合う
 

認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)(キャンペーン実行委員組織)のこどもアンバサダーのお二人から、自身の体験や日常生活から感じたこと等に基づくお話をしていただきました。

波田野優さん

  • 日本では、子どもは指導の対象であるというみかた概念が学校で深く根付いていると感じる。このために、子どもが意見を聴かれることが少なく、学校生活を息苦しく感じる子どもが多い。子どもの精神的幸福度の低さにもつながっている。なかなか意見を聴いてもらえない。声を上げづらい。
  • 子どもの権利の認知度が低い。FTCJの実施したアンケートでは、子どもの権利を内容までよく知っているという教員が21.6%だった。高校生では8.9%。さらに下の年齢ではもっと低いだろう。
  • 子どもの権利をわかりやすく学ぶ機会が増えれば、知識と理解が深まり、子どもは指導の対象であるという考えもなくなり、子どもが一人の人間として生きやすくなると思う。これからも自分にできることをしていきたい。

山口清崇さん

  • FTCJの活動に参加して子どもの権利について知った。特別支援学校と通常学級の子どもがもっと交流して知り合えればいい。関わりがないと、嫌なことを言われたりした。苦しい思いをした子どもが子どもの権利について知っていれば、助けを求められたかもしれないと思う。こども基本法ができて、子どもの声を聴かれる機会が増えたように思う。自分でも日頃からモヤモヤすることがある。子どものために使えるお金をどこから出すのか?など。色々なアクションをしたこどもが集まって開催した「チェンジメーカーズフェス」はとても楽しかった。アクションを認めてほめてもらえた体験がとても嬉しかった。子どもはおとなに守られるだけの存在ではなくて、おとなと一緒に色々な問題を改善していくことが大事だと思う。

次に、キャンペーンで今後予定している「子どもメガホンプロジェクト」と「自治体向け子ども参加勉強会」について紹介しました。

山内澄子(キャンペーン実行委員組織 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部)

  • 「子どもメガホンプロジェクト」として、日本の子どもの権利の保障ならびに国連子どもの権利条約報告書審査に向けたアドボカシー及び啓発活動を開始した。今年度の活動は、子どもチームによる政策提言と、子どもアンケートやフォーカスグループを通しての子どもの権利の状況について子どもの声を聴くなど。現在子どもメンバー募集中。キャンペーンのホームページからもプロジェクトの詳細を確認できる。
  • 「自治体向け子ども参加勉強会」を、5/16(火)にオンライン開催する(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン主催、広げよう!子どもの権利条約キャンペーン後援)。全国の自治体で、今後子ども施策の策定等子どもの意見反映のための取り組みを担当する行政職員の方々が対象。申込受付中。

成田由香子(キャンペーン実行委員組織・事務局 認定NPO法人ACE 事務局次長 /子ども支援事業チーフ)

  • 「講師・アドバイザー派遣」のプログラムを開始予定。子どもの意見を聴く仕組みを各自治体が取り入れることが義務づけられたことを受け、自治体の取り組みをサポートするための講師派遣、アドバイザー派遣をしたい。興味のある方は申し込みフォームからご連絡ください。

③ 行動で示す
④ ボトムアップとトップダウンの両方から変化を促す

続いて、キャンペーンで今後予定している啓発キャンペーン「こどモヤ」と、こども基本法・こども家庭庁に関する政府の動きを紹介しました。

小澤いぶき(キャンペーン実行委員組織 認定NPO法人PIECES代表)

  • 本日(4/22)から「こどモヤ」という啓発キャンペーンを始める。子どもだけでなくおとなも子どもの権利についてきちんと知り、実現していくことが重要と考え、目的は、①子どもたちの声を伝える(子どもたちのもつ多様な「声」を丁寧に知り、政策や社会とつなげる)、②子どもたちの声から、子どもの権利条約を考える(子どものモヤモヤの背景にある声を大切に受け取る)、③こども基本法の約束を贈る(「こども基本法」は子どもの声を聴くことを約束している)としている。
  • 子どもたちが感じているモヤモヤ=こどモヤを主にインスタグラムを通じて発信するので、フォロー&シェアをお願いします。

西崎萌(キャンペーン実行委員組織 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部)

  • こども基本法が2023年4月に施行され、政府はこども施策を総合的に推進するため、こども大綱を定めることとなった。今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針や重要事項についてこども家庭審議会で議論中。
  • 「こども若者★いけんぷらす」という意見表明の仕組みが子ども家庭庁内にでき、参加者募集中(小1から20代)。子どもの声を安全に聴き取る・意見表明のサポートをするファシリテーターの育成も行う。
  • おとなが聴きたいことだけを聴きたいときに聴くだけにならないよう、運営パートナーを置いて子どもたちが言いたいことを言いたいときに言える場づくりを行う予定。

最後に、これまでの発表者からの話を受けて、講師の野村武司氏より、

  • 子どもの声を聴くのは「文化」。つくるのに時間がかかるし、途切れるとすぐ壊れてしまう。制度を作る時に文化として必要。
  • 先に話した立法事実には子どもの権利侵害の話が多いが、その中で「子どもの声が聴かれていない」ということが必ずしもデータとしてまだ出てきていないので、立法事実の一つとしてこれから取り上げていきたい。

といったコメントをいただきました。

子どもメガホンプロジェクトの説明の様子

参加者の感想共有と質疑応答、まとめ

参加者の皆さんから、次のような感想・質問が寄せられました。

Q1)子ども支援の現場で、子どもの権利が侵害されている状況を改善しようとコミュニケーションをとろうとすると「無駄話」と言われ、理解が得られないという体験をした。身近なレベルで子どもの権利の実現の難しさ・課題を感じる。何かいい解決策はあるか。

A1)組織の理解がないと個人が奮闘して疲れてしまう。日常的に子どもの気になることを話し合えるしくみと文化を組織としてつくることや、現場の声を集めて政府に届けることも大事なのではないかといった意見が出ました。

Q2)自治体が子どもの声を聴くことが義務化されたのは喜ばしい。今後、それがきちんと実現されていくために、市民として心がけることや気をつけることはあるか。

A2)多くの自治体職員にとって新しい取り組みであることを市民としても理解しておく必要があること、まずは子どもと語る場を少しずつ増やし、審議会など従来の動きやカルチャーと合体させていくなどして、子どもの声をしっかり聴く仕組みをつくっていくのがポイントではないかといった意見が出ました。

最後に、甲斐田万智子(キャンペーン共同代表 NPO法人国際子ども権利センターC-Rights代表)より、本日の参加者の中に子ども・若者がいて、その声を聴くことができてよかったということ、また子どもの声を聴くことが形骸化しないように、子どもの声を聴く文化、子どもの声を聴くのがあたりまえの社会にしていきたいという思いを共有し、閉会しました。

全体写真:当日は最大で116名の方にご参加いただきました。ありがとうございました!

以上

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