開催報告:4/22子どもの権利条約日本批准31年周年記念イベント「こども基本法制定から2年、自治体による子どもの権利保障の最前線」

広げよう!子どもの権利条約キャンペーン(以下、キャンペーン)では、1994年に日本政府が国連子どもの権利条約を批准して31年目となる今年4月22日(批准日)に、改めて子どもの権利について振り返るイベントを開催しました。

本イベントでは、こども基本法が施行され、全国の自治体で子どもの権利に基づく施策を子どもの声を反映しながら創出することが求められている今、4名の登壇者により、自治体における子どもの権利保障の現状や今後のあり方について調査報告や実践事例を通じて発表いただきました。

当日は、賛同団体であるNGO/NPO、行政・教育関係者、報道関係者を含め、のべ133名が参加し、登壇者から多様な立場からの知見が共有されました。これにより、自治体で子どもの権利を保障するために求められていることや先行事例などについて理解が深まり、今後の連携や取り組みを促進する契機となりました。

開催あいさつ・広げよう!子どもの権利条約キャンペーン紹介

はじめに、本キャンペーン共同代表、(統括)国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事の甲斐田万智子さんから、本キャンペーンの概要説明や活動ロードマップと併せて、2019年の国連子どもの権利委員会からの勧告を受けた日本における進展と、依然として残っている課題について報告がありました。

  • キャンペーンでは、日本社会において子どもの権利の概念が浸透し、あらゆるレベルで子どもの最善の利益が確保される社会づくりを目的とし、提言活動など行ってきた。2029年まで子どもの権利を保障する総合的・包括的政策の実行、子どもコミッショナー制度の実現、子どもの権利条約の理解の促進・行動の増加の実現に向けて子どもと共に活動を続ける。
  • 2019年に国連子どもの権利委員会から勧告を受けて以降、進展したこととして、こども基本法の制定、こども家庭庁の設置、体罰全面禁止の法律の施行、こども大綱をもとにこども計画に子どもの意見を取り入れようとする自治体の増加、子どもの権利をテーマとする自治体職員・教員向け研修の増加が挙げられる。
  • 十分に実施できていないこととして、子どもの意見表明権の保障、子どもの権利の視点に基づいた子どもに対する明確な資源配分、子どものため・子どもと共に働くすべての人への研修、マイノリティ特に難民など外国ルーツの子どもへの差別の禁止、そして子どもの最善の利益や意見を聴かれる権利を保障するための取り組みが不十分であることが挙げられる。
  • 自治体は権利条例を制定し、子どもが尊厳を奪われていると感じたときに子どもが声を上げ、相談できる仕組みをつくることが重要である。学校や教育委員会は、自治体や市民団体と連携することで、子どもの声を聴き、権利を保障する場となることができる。

登壇者による発表

登壇者による発表では、自治体における子どもの権利保障に関する最新の調査結果や、先進的な取り組みの実例、制度整備の課題と展望、さらに海外の実践から得られる学びについて、多角的な視点から紹介されました。それぞれの発表を通じて、子どもの権利を保障するための実践とその課題が浮き彫りとなりました。

「自治体における子どもの権利条例と子どもの権利救済制度に関する調査報告書からわかること」

1人目の登壇者として、堀江由美子さん((公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部長)から、以下の内容について発表していただきました。

  • こども基本法とこども家庭庁ができたことを受け、これまで複数回にわたり自治体職員向けの勉強会を開催。参加者より、子どもの権利や子ども参加に関する知見、資源の不足等の課題や、他自治体の取り組みを知りたいといった要望が出され、自治体の子ども施策をより子どもの権利を基盤としたものとするためにも、今回の調査を実施する運びとなった。
  • 子どもの権利条例は、子どもを権利の主体とする地方自治の施策推進に重要だが、体制整備や子どもの声の反映には課題を感じている自治体も多い。こうした中、子ども参加の指針整備や市民モニター制度を導入している自治体もみられる。
  • 国連子どもの権利委員会は日本に対し、条約実施を監視する独立機関の設置を勧告してきたが、こども基本法にはその規定が盛り込まれなかった。一方、自治体では約50の地域で独立した子どもの権利救済機関が設置されている。子どもオンブズパーソンは、子どもの気持ちに寄り添いながら、専門職と連携して相談対応や是正勧告を行っている。
  • 子どもオンブズパーソンに関する制度面・運用面での課題と対応策としては、十分な組織体制と専門人員の確保、関係機関や個別施策との連携強化、活動の透明性の確保、制度改善に向けた働きかけの拡大、そして子どもの権利に関する普及・啓発活動の推進などがある。報告書では、子どもが権利侵害に気づき、安心して相談できる環境づくりの実践例を紹介。

「自治体事例:名古屋における子どもの権利擁護委員制度について」

2人目の登壇者として、間宮静香さん(名古屋市子どもの権利擁護委員/弁護士)から、以下の内容について発表していただきました。

  • 名古屋市では、2008年に「子ども条例」を制定し、2020年に改正して「子どもの権利条例」とした。さらに2019年には、子どもの最善の利益を確保するため、独立性を持つ子どもの権利擁護委員条例を設けた。委員は相談対応や申立・勧告、普及啓発などを担い、相談窓口「なごもっか」を開設して、多様な立場の人々と連携しながら運営している。
  • 「なごもっか」では、原則として電話・面談で相談を受け、小中高生から幅広く利用されている。相談後はケース検討会議を開き、子どもの最善の利益に基づいて対応が検討される。必要に応じて、相談者による申立てを受けて調査が行われたり、擁護委員が主体となって発意を行い、制度改善に向けた勧告や要請を行うこともある。相談内容は緊急度に応じて柔軟に対応している。
  • 子どもの権利救済機関の主な役割・任務には、モニタリング機能、制度改善・勧告機能、個別救済機能、普及啓発機能の4つがある。
  • 子どもの権利救済機関は、個別・事後的救済に加え、権利侵害の予防や解決に向けた啓発・権利学習・政策提言など幅広いアドボカシー活動を行い、「子どもに」ではなく「子どもと」共に権利が保障される社会の実現を目指している。

「自治体における子どもの権利保障の取り組みとは」

3人目の登壇者として、野村武司さん(子どもの権利条約総合研究所副代表)から、以下の内容について発表していただきました。

  • こども基本法の制定により、「こどもまんなか社会」とは子どもの権利を保障する社会であることが示され、こども施策に子ども等の意見を反映するための措置を講じることが、自治体に義務づけられた点は重要である。
  • こども基本法は、こども施策を総合的に推進するための法律であり、子どもの意見を反映しつつ、国は「こども大綱」、自治体は「こども計画」を策定することで、「こどもまんなか社会」の実現を目指している。
  • こども基本法が制定されるまでは、子どもの権利を基盤とした総合的な法律がなく、縦割りの政策が続いていた。こども家庭庁の創設により省庁間の縦割りは解消されたものの、法律の縦割りは厳然と存在している。こども基本法では、自治体がこども計画を一体的に策定できるとされており、法律の縦割りを超えた総合的な行政運営が自治体に期待されている。
  • こども基本法のもとで、自治体は子どもの権利条例を制定し、子どもの権利に関する共通認識の形成や普及啓発、おとなの役割の明確化、施策の計画・実施・検証体制の整備を行うことが求められている。加えて、子どもの意見を反映する参加の仕組みや、権利救済と制度改善につながる体制の構築も重要であり求められている。

「海外の事例とともに学ぶ子どもの権利教育の意義とは」

4人目の登壇者として、林大介さん(子どもの権利条約ネットワーク事務局長)から、以下の内容について発表していただきました。

  • こども家庭庁設立準備室は、アイルランド・フィンランド・ニュージーランドの子ども政策決定過程における意見反映プロセスを調査。これらの国では、子ども・若者が政策立案に影響を与える常設の仕組みやオンブズパーソン制度が整備されているが、おとな主導での企画段階の関与が中心で、実施や評価段階への子ども・若者の関与は限定的だった。
  • ドイツのデュッセルドルフ市では、2016年から都市計画への青少年の参加を推進しており、「民主主義的な決定」には、子どもを含むすべての市民の参加が重要とされている。子どもの頃に「きちんと話を聴いてもらえた」経験は、成功体験にもつながると考えられている。
  • 3歳以上の子どもは、意味のある参加が可能とされている。デュッセルドルフ市では、その一例として、3歳児に遊び場の絵を描いてもらうワークショップを実施。抽象的な質問ではなく、普段遊んでいる場所の中で好きなところを絵で表現してもらうことで、子どもの感じ方や意見を把握し、その声を政策に生かしている。
  • ドイツでは、デモ行進の方法や意見を表明する大切さ、「自分の声は聴かれる」ということを子どもの頃から丁寧に教えている。発言の重要性を伝えるとともに、「言える場があること」や「周囲のおとながきちんと聴く姿勢を持っていること」を示し、子どものうちから社会参加の基礎を育んでいる。

パネルディスカッション

堀江 由美子さん(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部長)

Q:こども基本法を受け、子どもの権利条例やオンブズパーソンを導入する自治体は増えているか。また、取り組みが進む背景、企業や社会における子どもの権利への意識の変化、最近の傾向についても知りたい。

A:こども基本法を受け、条例やオンブズパーソン設置を目指す自治体は増加していると感じる。私たちの勉強会のアンケートでも約半数の自治体が制定済み・策定中・検討中で、意識の高まりが表れている。背景には、法整備の後押しによる、子ども参加の重要性に対する自治体の意識向上がある。一方で、企業の関心はまだ限定的だが、人権デューディリジェンスの進展に伴い、「子どもの権利とビジネス」に関する相談が寄せられ、企業にも子どものセーフガーディングや子ども参加の重要性を伝えている。

野村 武司さん(子どもの権利条約総合研究所副代表) 

Q:これまで関わってきた自治体の推進力となった要因は何か。また、名古屋のような大都市でなくても、他の自治体で実現可能な取り組みにはどのようなものがあるか。

A:子どもの権利条例の動きは、自治体の取り組みが権利に関わっていたという気づき、ブームへの危機感、市町村長の姿勢などが後押ししている。財政や人員に限りがある自治体も、子どもの権利を保障したいという強い想いで、可能な範囲から条例づくりに取り組んでいる。一方で、救済機関の人材確保が課題であり、制度改善を担うコミッショナーモデルの導入が有効だと考えられる。

間宮 静香さん(名古屋市子どもの権利擁護委員)

Q:子どもの権利を守るために、「なごもっか」ではおとなへの啓発や問題意識の共有をどのように行っているか。

A:子どもから「おとなに言っても聴いてくれない」という声が上がることがあり、権利の義務者であるおとなの理解が不可欠だと感じる。保護者向けの学習機会が少ない中、「もっと早く知りたかった」という声も多く、子育て前から子どもの権利を学べる場が必要だと考え、プレパパママ研修への導入を各自治体に働きかけている。名古屋市では今年、保健師向け研修が始まり、今後の広がりに期待している。

野村さん:子どもの権利の普及は、権利を尊重する文化づくりにつながる。特にオンブズパーソンの役割が重要。杉並区では、条例制定前から子ども参加のワークショップを実施し、子どもに関わる部署に限らず全庁的に職員研修を実施。

林 大介さん(子どもの権利条約ネットワーク事務局長)

Q:子どもの意見表明を学校で確立するには、どのようなサポートが必要か。特に条例や救済制度がない地域で、周囲にできることは何か。

A:校則の見直しに中高生が当事者として関わるルールメイキングや、校内居場所カフェの設置など、子どもが尊重される場づくりが各地で進んでいる。世田谷区では条例改正の過程で中高生の会議を実施し、大学生がファシリテーターを担うことで双方の主体性や権利意識も高まっている。子どもの意見表明を支えるには、おとなが権利を理解し、共に行動することが重要である。

甲斐田 万智子さん(広げよう!子どもの権利条約キャンペーン共同代表、認定NPO法人国際子ども権利センター(C-Rights)代表理事)

Q:「自分の問題は自己責任」とされがちな中で、子どもが相談しづらい現状がある。そうした中、市民団体にはどのような役割や連携の可能性があるか。

A:子どもを一人の人間として尊重する文化を社会全体で築くことが重要。子どもには自己決定権があり、声を上げることで社会が変わることを伝える必要がある。また、子どもの声に耳を傾け、それを施策に反映させる責任もある。市民団体には、子どもが必要な支援にアクセスできるよう、相談先の周知や情報発信を進めていくことが求められている。

参加者の声

  • 『救済機関の存在がこどもの権利を保障していく中で非常に大きいことがわかりました。特にこどもの悩みを基に、実際に勧告をしたり、個別の問題を全体の問題と捉えて仕組みそのものを変えようと行動されているところが印象に残りました。』
  • 『当たり前ですが、「子どもに」ではなく「子どもと」が大切であり、子どもの権利を促進する文化を創ることが大切ということに、改めてそうだなあと思いました。』
  • 『義務感から子どもの権利を知らなきゃいけない、ではなく文化として醸成していけたらということにすっと共感できました。』
  • 『各自治体の現状、あるいは海外の取組事例を知ることが出来て良かった。私の住んでいる自治体では、子どもの権利を保障しようとする動きが鈍いように思えるので、どんな所からアタックして行ったらいいのか、課題も感じた。』
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