開催報告:5/22 いじめ問題から考える子どもの権利〜元当事者・子どもの声と現在の取り組み〜

2025年5月22日(木)、本キャンペーン主催による子どもの権利ランチセミナーをオンラインにて開催しました。

第4回となる今回は、今年2月に多くの方にご参加いただいた「学校における子どもの権利」をテーマとしたセミナーの第2弾です。小中学校でいじめや不登校を経験し、現在はいじめ問題や不登校支援に取り組む社会活動家である高校3年生の悉知信さんをゲストに迎え、当事者の視点から語られる現場の声を通じて、子どもの最善の利益とは何かを参加者とともに考える場となりました。当日は、73名がオンラインで参加しました。

ゲストスピーカーの悉知信さんから、以下の内容について発表していただきました。

自己紹介

  • 小中学校時代にいじめや不登校を経験したことが、活動をはじめたきっかけとなった。当時、先生にいじめの被害を訴えたものの、「オーバーリアクションをしている」「あなたにも原因があるのでは」「あなただけの証言では証拠にならない」などと言われ、おとなが真摯に向き合ってくれず、学校現場に絶望した。
  • 同じ思いを未来の子どもたちにさせたくないという強い気持ちから、「当事者だからこそ伝えられること、発信できることがある」との考えに至った。その経験と思いを原動力に、社会活動家として「いじめ撲滅と不登校支援の拡充、被害当事者が泣き寝入りしない社会へ」を目指して活動を開始。

活動紹介

  • 活動の3本柱として、第1に子どもたちと関わり、当事者の声を拾う「現場支援・当事者支援」。第2に、現場の声を制度につなげ、当事者の声を届ける「政策提言・要望活動」。第3に、社会の無関心に「声」で風穴をあけ、社会に発信する「発信活動」がある。
  • まず、「現場支援・当事者支援」では、いじめの被害者などを対象とした交流会の主催や学童・子ども食堂でのボランティア活動を展開している。また、「政策提言・要望活動」では、市議会へのいじめ防止条例に関する陳情の提出をはじめ、これまでに200名以上との意見交換や要望の働きかけを行ってきた。最後に、「発信活動」では、世間にムーブメントを起こすことを目指し、メディアやSNSでの情報発信、講演・セミナーへの登壇などに取り組んでいる。

当事者や現場の声から考える

  • 「いじめた相手は何もなかったように進学して、自分だけが止まったままだった」。当事者の声が示すように、いじめは被害者の人生を大きく変えてしまう。子どもの権利条約第28条は教育を受ける権利を保障しているが、現実には安心して学べる環境がいじめによって損なわれている。被害後の社会復帰の機会は十分に確保されているのか。未来を取り戻すための支援をおとなが責任を持って行う必要がある。
  • 「誰にも言わない約束で先生に相談したのに、周りに伝わってもっといじめがひどくなった」。子どもの権利条約の視点から考えると、意見表明権やプライバシーの権利、そして子どもの最善の利益は十分に守られていたのか疑問が残る。おとなの都合で判断していないか。先生には、子どもの声を尊重しながら、子どものためになる対応とは何かを考え、行動する姿勢が求められる。
  • 「学校に行きたくないと言っていたのに、無理やり登校をさせられて苦痛だった」。子どもの権利条約の視点から考えると、おとなは子どもの意思に、本当に耳を傾けられているのか。おとなは子どもの最善の利益を考え、「行きたくない」という子どもの意見表明を真剣に受け止め、尊重すべきだと考えている。
  • 子どもの権利を守るためには、親や教育現場を含めたすべてのおとなが、子どもの最善の利益とは何かを考えることが重要。また、子どもの権利条約の認知度について先生を対象にインタビューをしたところ、「名前を聞いたことがあるけれど、詳細は自信がない」と答えた先生もいた。子どもと直接関わる学校現場ですらこの状況であることを考えると、他のおとなはさらに子どもの権利について知らない可能性が高いと感じる。

スピーカートーク

発表の後、林大介さん(子どもの権利条約ネットワーク事務局長)より、参加者からの質問等を踏まえて、ゲストスピーカーとの質疑応答の時間を持ちました。

林さん:ご自身の経験を踏まえて、いじめ問題などに対して、学校現場ではどのように対応していくべきだと考えるか。

悉知さん:おとなが一方的に主導するのではなく、今後の進め方を子どもと共有し、透明性を確保したうえで、子どもの意見を聴きながら共に動き、立ち向かうことが重要だと感じる。

林さん:スクールカウンセラーやソーシャルワーカーなど、学校内に相談できる人はいたか。

悉知さん当時、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーに相談しようとは思えず、自分のことを一番よく知っている担任の先生に相談した。しかし、そこで十分な対応が得られなかったため、親と一緒に教頭や校長にも話を持っていった。それでも最終的にはきちんとした対応がされなかったというのが、当時の自分の経験だった。

林さん:実際にさまざまなところに働きかけをしたことで、その後良い方向への変化はあったか。

悉知さん国政よりもまず地元でモデルケースをつくることが重要だと考え、市議会に働きかけを行ってきた。その結果、いじめや不登校の問題が議会で取り上げられる回数が増え、関心を持つ議員も増加した。提案を実際に一般質問や執行部への働きかけにつなげてくれる議員も現れ、議会全体の意識が高まってきていると感じている。

林さん:水戸市の学校現場で何か変化はあったか。

悉知さん水戸市の中学校では「校内フリースクール」が導入され、小学校にも広げていこうという動きが出ている。また、市長との定期的な懇談も行われ、いじめや不登校への取り組みは少しずつ進んでいる。一方で、フリースクールについては、制度や環境が一定程度整ってきてはいるものの、不十分な点もあり改善の余地がまだ多く残されていると感じる。

林さん:働きかけをする中で、全国を見ていて「この取り組みいいな」と思った事例や、印象に残った取り組みはあったか。

悉知さん大阪府寝屋川市のいじめ対応が印象に残っている。教育的アプローチだけでなく、行政的・法的アプローチも取り入れ、三つの視点からいじめに対応している点が特徴的。市役所に専門部署「観察課」を設け、弁護士や心理士が学校外で対応。解決が難しい場合は司法的アプローチを行い、裁判費用などの支援も行う。子どもの未来を取り戻す取り組みとして、全国のモデルケースになると思う。

林さん:いじめの加害者に対しては、どのようなアプローチがあるといいと思うか。

悉知さん加害者の背景には、家庭内での虐待や貧困、生きづらさなど、何らかの困難を抱えていて、それがいじめという行動につながっている場合もあると思う。いじめが起きると、どうしても被害者への支援が優先されるが、加害者への支援は十分とは言えない。両者に目を向けて対応しなければ、いじめの根本的な解決にはつながらないと感じる。

林さん:この活動をする中で、同世代など仲間との広がりはあるか。

悉知さんもともとは一人で動いていたが、一人では大きなムーブメントにはつながらないと感じ、「茨城のいじめ問題を考える会」を立ち上げた。そこを拠点に、同世代でいじめの経験がある人たちと意見交換をしたり、一緒に活動などしている。今後も仲間を見つけながら、さらに大きな輪に広げていきたいと思う。

最後に本キャンペーンの今後の活動についてのお知らせ等を行い、閉会となりました。

今後も、子どもの権利に関わる法制度や取り組みに関する最新情報をお届けするランチセミナーを開催してまいりますので、ぜひご参加ください。

参加者の声

『実際に経験した方の声は何よりも人を動かすと思います。本当に、こどもの声に寄り添う為に、この様な機会に参加できて良かったです。』

『子どもの権利を確認することで、大人が子どもに関わるときに、子どもに対してひとりの人権・人格を持っている存在としてしっかり向き合うことの大切さを、改めて認識できたと思います。』

『これまでも心掛けている話ではありますが、気持ちを新たにしました。勝手に良かれと判断して子どもに関わるのではなく、本当にそれでよいか子どもの立場になって真剣に自問自答する、本人に訊いて意思を確認する、などを常に意識して行動したいと思います。』

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