子どもの権利をすべての子どもの当たり前に—ニュージーランド子どもコミッショナーに聞く、子どもの権利保障と日本の展望—

2025年11月11日(火)、本キャンペーン主催によるシンポジウム「子どもの権利をすべての子どもの当たり前に〜ニュージーランド子どもコミッショナーに聞く、子どもの権利保障と日本の展望〜」(共催:公益社団法人日本財団、一般社団法人Everybeing、認定NPO法人ACE)が開催されました。

ニュージーランドの子どもコミッショナーであるクレア・アクマド博士の来日に合わせて企画されたもので、参加者26名、登壇・関係者を含め計50名が会場に集いました。国際的に確立された「子どもコミッショナー制度」の理念と実践を学び、日本で制度を実現するために必要な条件や展望を多角的に考える機会となりました。ご参加およびご協力いただいた皆さまに、心より御礼申し上げます。

指定発言:世界の潮流と日本の取り組み「子どもコミッショナーって、なに?」(発表者:野村武司さん)

野村さんからは、まず「子どもの権利を守り、促進するための独立した監視機関」としての子どもコミッショナーの存在意義が解説されました。子どもは選挙権を持たず、自らの生活や権利に影響する社会的意思決定にアクセスしにくい立場にあるため、国連子どもの権利委員会はすべての締約国に対し、独立した権利救済・監視機関の設置を強く求めています。

世界における制度には主に2つのモデルが存在します。

  • オンブズマンモデル(個別救済を行っている)
    子どもからの具体的な相談を受け、その問題を解決(救済)する。
  • コミッショナーモデル(制度改善が中心)
    個別の救済は行わず、国の法律や制度が子どもの権利を侵害していないかを監視し、改善を促す。

日本では自治体レベルで「子どもオンブズマン」の設置が広がっている一方、国レベルでのコミッショナー制度はいまだ実現していません。自治体の取り組みが個別救済では成果を出しているものの、制度設計の根拠となる法律・省令・基準の大部分を国が握っている以上、国による制度改善の仕組みがなければ根本的な課題解決にはつながらないことが多々多いと強調されました。

そのうえで、自治体のオンブズマンが個別救済を担い、国が制度改善型のコミッショナーとして連携する構造が必要であると提起され、「作りましょう。国の子どもコミッショナー。」と力強く締めくくられました。

基調講演:ニュージーランドにおける子どもコミッショナー制度の役割と意義(発表者:クレア・アクマド博士)

講演はマオリのカラキア(祈り)から始まり、「子どもは国境を越えても、育つ地域がどこであっても、変わらない権利を持っている」という言葉が会場に響きました。博士は2023年に子どもコミッショナーに任命され、全国の130万人の子どもおよび困難な状況に置かれやすい若者のためにアドボカシーを行っています。

たとえば、優先的にフォーカスすべき対象として以下が挙げられました。

  • マオリの子ども
  • 児童保護下または保護経験のある子ども・若者
  • 障害や特別な支援ニーズのある子ども・若者
  • 少年司法制度の中で拘束されている子ども・若者
  • 親が刑務所にいる子ども
  • レインボー(LGBTQ+)の子どもと若者

子どもコミッショナーが担う機能は大きく3つです。

  1. 利益・福祉の促進(議会・首相への報告や提言)
  2. 権利の促進(子どもが権利を理解し、政府が責務を果たすことを促す)
  3. 参加・発言の促進(子どもの声を聞き、意思決定に反映させる)

クレアさんは特に「声を聞くこと」に情熱を向けており、学校や地域行事を訪れ、子ども・若者に直接会って対話を重ねています。「あなたの世界で一番大事なことは?」と問いかける「ポストカードプロジェクト」で子どもが返した答え「家族があって、屋根があって、暴力がないこと」は、権利保障を“現実の安心”として捉える重要性を示しています。

制度は具体的な成果も生み出しています。身体罰禁止法の成立や、6,000人を超える子どもの声をもとに策定したウェルビーイング戦略など、国の政策決定に影響を与えてきました。博士は「コミッショナー制度は理念ではなく、子どもたちの暮らしを現実的に変える仕組み」だと強調しました。

対談セッション:日本の子どもコミッショナー設立に向けて

パネリスト:クレア・アクマド博士、野村武司さん、高橋恵里子さん(公益社団法人日本財団)
モデレーター:西崎萌さん(一般社団法人Everybeing)

高橋さんは、日本の制度課題と政策提言の背景を紹介しました。社会的養護の現場で、里親委託において実親の同意が優先され、子どもの権利や最善の利益が後回しにされる場面に多く向き合う中で、「日本には子どもの権利を最優先とする法律が存在しない」という根源的な課題に気づいたことが、大規模な政策提言の出発点だったと述べました。

提言の柱は

  1. 子どもの権利を明記した法律の制定
  2. 子ども行政の調整機関の設置
  3. 子どもコミッショナーの設置

の3点であり、制度の有用性の可視化、独立性の担保、国と自治体の役割分担をどう設計するかが議論の課題として浮かび上がったと説明しました。

クレアさんは、日本ですでに蓄積されている取り組みを高く評価し、「制度への懸念や批判はどの国でも起こりうるが、克服可能であり、実際に制度は社会に良い変化をもたらす」と強調しました。さらに、自治体のオンブズマンと国のコミッショナーが協働することが制度成功の鍵になると述べました。

野村さんからは、災害や政策変更の際におとなの視点が優先され、子どもが置き去りになる経験がこれまで何度もあったことを踏まえ、「国として子どもの声を施策に反映する仕組みが不可欠である」との意見が述べられました。

参加者に向けたメッセージ

登壇者からは最後に、制度実現への意気込みと今後への期待が寄せられました。

  • 高橋さん:子どもの権利を社会へ広げるため、より多くの人へ学びの機会を届けたい
  • 野村さん:国として制度改善を担う仕組みがなければ、自治体の努力だけでは限界がある
  • クレアさん:日本での子どもコミッショナー設立は実現可能であり、国際社会も歓迎する動きになる

クレアさんは最後に、「今日のおとなの決断は、今だけでなく子どもたちの一生に影響する」と述べ、子どもたちのために活動する独立したアドボケイトの必要性を力強く訴えました。

おわりに

今回のイベントを通じ、制度や政策の議論はもちろん、子どもたちの声に耳を傾け、権利を保障する文化を社会全体で育んでいくことの重要性が改めて共有されました。子どもたちが「声の届かない存在」ではなく、「権利の主体」として尊重される社会を実現するために、私たちは引き続き活動を進めていきます。

※2025年11月28日~2026年2月25日の期間中、本イベントのアーカイブ動画を配信しています。
詳しくはこちら:crcc-20251111archived.peatix.com

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