開催報告:9/16「学校における子どもと先生の自由~市民活動が果たせる役割」

2025年9月16日(月)、本キャンペーン主催による第6回子どもの権利ランチセミナーをオンラインにて開催しました。

今回は、「学校における子どもの権利」をテーマとしたセミナーの第4弾。「学校における子どもと先生の自由~市民活動が果たせる役割」について、重永侑紀さん(NPO法人にじいろCAP代表理事・福岡県)からお話を伺いました。当日は、74名がオンラインで参加されました。概要をまとめましたので、皆さんぜひご一読ください。

CAP(キャップ Child Assault Prevetion:子どもへの暴力防止)プログラムは子どもを権利の主体者と捉え、ポピュレーションアプローチを行う包括的一次予防教育です。重永さんの団体では、おもに福岡県、佐賀県、熊本県の学校、保育所、施設、行政に年間1,000回以上提供しています。重永さん自身はさらに、子どもアドボカシーセンターや認定NPO法人CAPセンター・JAPANで人材養成を担っています。

CAPプログラムを活用して自治体と協働するやり方

福岡市久留米市の家庭子ども相談課と保健所、教育委員会と協働して、「子どもの権利啓発等事業」「SOSの出し方教育事業」という事業名で、CAPプログラムを提供しています。コロナ時に、災害後は子どもたちがさまざまな症状を出すので、予防教育を取り入れて、子どもたちの命を一緒に守ろうと提案し予算化されました。この取り組みによって、子どものSOSが増え、久留米市では2021年度の学校からの虐待通告は51件でしたが、2024年度は136件となり、子ども本人も声をあげるという実態が見えてきています。

CAPプログラムを活用した「子どもアドボカシー」とその効果

子どもワークショップでは、劇を通して楽しく、参加しながら学びます。守ってもらうのではなく、自分にもできることがあるということを知って、エンパワーされます。CAPでは“安心・自信・自由”を、子どもにとって特別に大切な権利だと伝え、暴力のことをタブーな話題でなく、学校の授業で明るく前向きに伝えます。だから、自分が困っていることも、みんなが困ることだとわかり、話していいと伝わります。先生にも劇に登場してもらって、どんなふうに話を聞いてもらうのかという見通しを立てることができます。

ワークショップ後に、CAPメンバー(通常3人でワークを行う)のうち誰に話そうと子どもが選ぶことは、自分が話したい人を選んで自分の話をすることの練習になります。子どもの許可を得ながら誰に協力してもらったらいいか、何ができるかを一緒に考えます。まさに意見形成支援、意見表明支援というアドボカシーです。

今、国が進めるアドボカシーは、社会的養護にいる子どもたちが対象ですが、本来ならすべての子どもたちに当たり前になってほしいと思います。CAPは、フォーマルアドボカシーの立場にある先生方と一緒に、どうやって子どもの権利、子どもの意見表明を大事にしていくのか、あるいは地域・保護者といったインフォーマルな方々にどんな協力をしてほしいのか、どんな現状を認識してほしいのかを自治体の責務として、トレーニングされたCAPスタッフがお話しします。その上で、子どもたちにピアアドボカシー、セルフアドボカシーに向けて発信をします。しかし、日本ではおとなに権利が浸透していないので難しいです。だから地味でも根気よくこれまでの臨床と子どもたちの声をたくさん聞いてきたこと、新しい情報をおとなに届けることが役割だと思っていいます。

令和の現実・学校の現状

家庭はすごく変化してきています。家庭では子育てを一人とか二人で担い、そのおとなも忙しく、道端で話す姿さえ見なくなってきました。本来なら、子どもたちがおとなの会話や人間関係を見ながら毎日を積み重ねて、“根拠のない安心感”というものを手に入れて、小学校にあがり、努力する・達成するといった“根拠のある自信”を身につけていくことになるはずなのに、今はその両方を学校がいろんな形で子どもに提供している現状です。家庭や地域がインフォーマルなアドボケイトであることが難しくなっています。

コロナ以降、子どもたちに「困ったときには誰に相談するの?」と尋ねると、「先生」と答えることが増えました。学校ではいじめ防止に関するマニュアルもできて、子どもたちに定期的にアンケートをとっています。子どもたちは先生なら必ず一対一で聴いてくれるという見通しが立つから、話すわけです。一方で、家の人は時間がないから、忙しそうだからと、遠慮している子どもたちの声を聴きます。学校のいろんなニュースも聞こえてきますが、どんな組織にも問題はあり、学校が変化してないわけではないことを理解してほしいと思います。

そして、子どもたちは、授業が終わったら放課後デイサービスか放課後児童クラブあるいは習い事に行き、家に帰ったら、人手が足りない家族をカバーする役割もしていて、日々の自由が激減しています。常に指導の対象で、対話が必要なのに、それが難しい環境になっています。子どもの周りで話す・語ることの楽しみやチャンスが減ることで、子どもたちは情動を言語化する力を失いかけています。「羨ましい」と表現すればすむところを、多くの子どもたちは「ずるい」と表現するのは、おとなたちの会話・対話に触れるチャンスが少ないからだと思います。

今、学校は主体的な学び、対話による学びへと移行中です。子どもは権利の主体者-これが当たり前の文化に向けて何ができるかと考えたとき、学校は地域のキーステーションなので、地域が子どもへの関わり方を変えていかないと、学校だけでは難しいです。だから、学校は、教員は・・・という一括りな言い方をせず、尊敬と敬意を持ってチームの一員でいましょう。子どもへの対応は文化で、学校に集結して現れ、私たち市民の生活の反映だと思うのです。ときに社会体育や地域行事の中で子どもが乱雑に扱われているのを、学校がハラハラして見ていることもあります。学校の問題だけではなく、社会の問題であることを認識してください。子どものSOSに気づいたらすぐにサポートが入り、共有できる-そんなシステムが必要だと思います。

スピーカートーク

後半では、本キャンペーンの共同代表である甲斐田万智子(C-Rights代表理事、子どもの権利条約総合研究所運営委員、立教大学・文京学院大学講師 )と重永さんの対談という形でさらにお話を伺いました。

甲斐田:こども基本法が施行後、学校の先生方の、子どもの権利に対する意識について、どんな実感がありますか。

重永:生徒指導提要が2022年12月に改定され、指導から子どもたちを育もうとなりました。これまで問題行動と呼んでいたものを問題提起行動、つまり子どもがSOSを出していると捉えましょうと、文科省も積極的に言っています。こども基本法の影響も受けています。しかし、多忙で、外からの情報が入りにくいのは現実です。だから、私たちが一緒に学びましょうとか、私たちの考えや、新しい情報を持って行くことで、知的好奇心の高い先生方は、理解されています。

甲斐田:「あなたのため」「あなたの将来のため」と言われがちで、教育の目的そのものが子どもたちのウェルビーイングが満たされるような教育にしていくことも必要と思います。教育は何のためにあるのかとか、最善の利益というお話もされたりするんでしょうか。

重永:毎年お邪魔するので、具体的なロールプレイ、ペアワーク、議論しながら情報を発信していきます。例えば「ウェルビーイングとか、生徒指導提要について知ってますか?こども基本法も知ってますか?」と聞いたら、知っている先生は少なく、日々の生活に追われてらっしゃるのは事実です。だから、外部とチームを組むのが大事と思います。

私たちは学校の先生方に「権利って何?」って聞かれたら、「してもいいよっていうことだよ」って伝えてねと言っています。おとなが権利を使わないから子どもは覚えようがないという話をするんです。40人を一人でみるためにできるだけトラブルが起こらないように、尽力してこられたんだと思います。法律の改正があって、これからの時代は、子どもにどうしたらいいの?どんなやり方ができるの?って、子どもと一緒に考えるのが大きな変化なんですと、先生方に考えていただいています。ある学校では、若い先生が「自分はずっと平等にすることを権利だと思っていたので、今日の、してもいいっていうこと、何ができるかなって問うことがすごく腑に落ちました」と言われました。学校も対話による学びを進めていこう、としていますので、何ら矛盾しないと思っていただいています。

甲斐田:自分は指導者だから、子どもにいいことを指導しなくてはいけないとがんじがらめになって、苦しくなってる先生も多い中で、これは当事者が決めること、つまり子どもに聞いてみればいいんだよと、逆に楽になる先生もいっぱいいると思います。

重永:親もそうです。子どもと一緒にどうしたらいいって考えるのは、本当にいいなぁと思います。先生にとっては、180℃の子ども観の転換だったりします。アドボケイトさんたちの養成にも関わらせてもらっていますが、学校の先生だけではないですね。「こういう時どうしたらいいですか」って聞かれます。「あなたは本人に聞いてみたの」と聞くと、「あぁ」となります。学校の先生だからではなくて、日本中がこの考え方に慣れていないと私は思っています。

ですので、学校とNPOだけではなくて、ここに行政が絡むことで、国及び地方公共団体の責務が果たせます。地域で子どものことを一生懸命やってくださっている専門性の高いNPOはいっぱいあると思うので、学校ベースに入っていってもらえたら、すべての子どもが権利を享受できると思っています。

甲斐田:日本社会全体の文化が子どもを権利の主体として見るようになるとよいとつくづく思いました。本当に今日はどうもありがとうございました。

参加者の声

  • 「にじいろグループ」の取り組みは、学校を批判するのではなく、学校の現場に入っていって対話を行って協力関係を作るというやり方が素晴らしいと思いました。このような活動のネットワークが全国に広がることを期待したいと思います。
  • 自治体と協働して活動している様子がよく分りました。
  • 子どもの権利のこと、アドボカシーのこと、CAPのこと…と話題を共有できたのが一層よかったです。
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