2025年7月31日(木)、本キャンペーン主催による子どもの権利ランチセミナー第5回をオンラインにて開催しました。
今回は、「学校における子どもの権利」をテーマとしたセミナーの第3弾として、喜多明人さん(広げよう!子どもの権利条約キャンペーン共同代表・早稲田大学名誉教授)から「学校における子どもの意見表明・参加~こども基本法のもとで学校はどう変わるか?~」について、お話を伺いました。当日は、79名がオンラインで参加されました。概要をまとめましたので、皆さんぜひご一読ください。
喜多さんは冒頭で、学校改革は国レベルで「学習指導要領」「こども基本法」を考えるということもあるが、実質的には地方自治や学校自治で考えていくことになる。また、学校の先生は超過勤務などでしんどい状況にあり、その現状を無視して改革しようとしても先生を追い詰めるだけなので、先生方の現状を踏まえて考えることが前提となると話されました。

子どもの意見表明-子どものエンパワメントと社会形成力をめざす
こども基本法の第3条・第11条では、「子どもの権利条約」第12条の意見表明権を重視している。基本法の成立には子どもへの危機感という背景があり、まずは子どもを元気づける(子どものエンパワメント)ことにあった。「私たち抜きに私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)というメッセージがあるように、子どもの最善の利益を優先して考慮した福祉の保障を実現するには、子どもが意見を表明する機会が確保され、周囲の関係者が意見を聴き、適切に考慮・反映する環境が整えられることが前提となる。このことを背景に、2024年から子どもアドボケイト制度が導入されていった。
さらに、「ユニセフ世界子ども白書・2003年」にも記載されているように、子どもたちは、参加する機会があれば自分たちのまわりの世界を変えられることを証明してきた。今こそ、学校は「やりなさい」から脱却し、子どもたち、先生を含めた「やってみたい」が大事にされることで元気を取り戻せる。意見表明支援が学校づくりに大事になっていく。
子どもの意見表明・参加と学校改革の歩み
1)子ども主導の学校改革
戦後初期には、児童自治会、生徒自治会と呼ばれていたものが、1951年の学習指導要領の一部改訂により、児童会、生徒会は特別(教育)活動として教育課程の範囲となり、指導の対象と位置づけられるようになっていった。その中でも、1970年代の高校紛争期、1990年代の子どもの権利条約批准期には、生徒会、児童会の活動はとても頑張っていたが、内申書脅しなどにより抑えこまれて自由に自主的な活動がしにくくなっていった。
2)教職員集団主導の学校改革
子どもの自己肯定感を高める実践として、生徒会3役が職員会議に参加するなど積極的に子ども参加を取り入れている学校があった。その取り組みをした先生方に共通するのは、子どもの権利条約批准前・1980~1990年代に子どもの荒れが問題になった時の子どもたちへの抑えこみ(管理教育)の反省にある。当時の管理教育の限界を感じ、子どもの参加支援へ転換していった。子どもたちの意向を尊重した学校づくりは、昨今の校則改善にもつながっている。しかし、教員の人事体制が変わり、指揮命令がライン系(縦割り)学校組織になって、従来の職員会議で決定するやりかた(スタッフ系学校組織)ではなくなったため、先生が発言しにくい、ひいては疲弊を生む状況にもなっている。一方、私立学校では教育委員会による規制がないため、学校単位で自由に子ども参加を実践しやすい。
3)校長主導の学校改革
ライン系学校組織になったことで、校長の権限が強化されたため、校長が頑張れば学校は変わるというのは、昨今あちこちで話題になっている。しかし、校長が異動してしまうと元に戻ってしまうという弱点がある。
4)自治体・教育行政主導の学校改革
過去に「学校教育推進会議」(教職員・保護者・子どもたち・住民の4者で構成)の取り組みを行った自治体もあったが、多くは子どもを外した「学校運営協議会」(教職員・保護者・住民の3者で構成)になっている。こども基本法の施行後、約20の自治体で子ども条例ができているが、教育長主導で進めているところがある。そのなかで岐阜県本巣市の取り組みはユニークである。子どもを主語にして書かれた「こども憲章」と、行政・おとなの責務を記した「こどもの権利条例」をセットにして、2025年4月から施行した。
先生は、私たちと共に学校をつくっていくパートナーです。
2 先生と私たちは、互いの違いを尊重し合い、対話を通して意思疎通を図り、共に学校をつくります。
3 先生は、こどもが自分をありのまま受け止め、自分らしく生きられるよう寄り添いながら温かく支えます。
こども憲章第9条(教師の責務)
5)民間主導の学校改革
学校や教職員が疲弊しているなかで、民間団体が子どもの意見表明・参加を支えながら学校づくりを推進することが大きな動きになってきている。認定NPO法人カタリバは校則改善(ルールメイキング)に取り組み、各地に設置されたアドボカシーセンターは、アドボケイトの学校訪問事業を始めている。
子どもの変容への心配
こども基本法の下で、上述したどの分野からでもいいから、子どもの意形表明・参加を軸にした学校改革が進んでいくことを期待しているが、今一番の心配は、意見表明・参加の主体である子ども自身が変容し始めたことにある。
例えば、各市が子ども条例づくりのために、子どもたちに呼びかけても子どもが参加しないという問題が出ている。子どもたちが動かなくなった理由の一つは、マイノリティ化の問題があると考える。少子化の時代に、おとなが圧倒的多数で、子どもはなにも決められず自尊感情が低くなっている。同時におとなが強いので、子どもたちがおとなに忖度する日常があり、親や教師の期待に応えようと頑張っている。それは自分が自分らしくありたいというのとは違い、自分を生きてない(偽りの自己の形成)。
社会参加は、その社会の構成員として当事者性を持ってなければならないが、今の社会に自分は生きているという実感がないと難しい。大学生のアンケートからも「生きているのが面倒」「今すぐに消えたい」という声が多く聞かれ、青少年の自殺数は増えており、潜在的な自死願望も多いと聞く。
また、子どもや保護者にとって、学校の構成員(パートナー)であるという意識から、教育という商品を買っている消費者という感覚になってきていることもある。
おわりに
「参加したいという意欲は、すべての人間に生まれながらに備わっている。その意欲は新たに生まれたすべての赤ん坊の中にあって発揮されるのを待ち構えており、外からの刺激を待っている。その意欲が尊重されもせず、子どもたちがおとなによって排除あるいは無視されれば、子どもがコミュニティに貢献できる可能性は損なわれる。そういう子どもたちは自分が取り扱われたのと同じやり方で-すなわち社会から見捨てられた存在として-行動し、エネルギーや創造性を下位文化のほうに向けてよくまとまった社会の創造には用いなくなる可能性が高い。」
-ユニセフ世界子ども白書・2003年 なぜ、いま参加なのかー
ここには、潜在的な人間の欲求として、子どもたちは自己決定要求や社会参加要求を持っていて、それにこたえることが大事と書かれている。今の子どもたちが社会参加しにくい状況の中、意見表明・参加の支援をすることがもう絶対に必要な時代になっており、子どもアドボカシーに期待している。学校が参画の経験やその機会の確保に取り組めば、子どもの意見表明・参加は飛躍的に前進すると期待できる。たいへん厳しい状況にあるが、子どもアドボカシーを導入することで、学校は変わっていく。
喜多さんの講演後、質疑応答を行い、閉会となりました。
今後も、子どもの権利に関わる法制度や取り組みに関する最新情報をお届けするランチセミナーを開催してまいりますので、ぜひご参加ください。
参加者の声
『戦後における学校現場の改革の沿革を踏まえつつ、いまの時代に合った子ども参加への大人の支援が必要であるということを認識できたことは、今後の励みになります』
『現在の学校では組織がライン化され、一般の先生たちの自主性が奪われている実態があるということが衝撃でした』
『子どものマイノリティ化。子どもが意見を聞いてもらえ環境に置かれ続けると、もはや自身を否定し、意見を表明しなくなることの危惧を持ちました』

